“Global Leader Story“ vol.5 内藤兼二

アジア11拠点で人材サービスを展開する「リーラコーエン」グループ代表

 日本で生まれ育ちながらも、グローバルな仕事環境で大活躍するリーダーのストーリーを発信する「グローバルリーダー・ストーリー」。

 5回目のグローバルリーダーは、アジア11拠点で人材紹介/HRサービスを展開する「リーラコーエン」のグループ代表である内藤兼二氏。東京生まれ東京育ち。2006年に立教大学卒業後、リクルートに入社。福岡、東京勤務を経て、中国、ベトナム、タイで事業を牽引。2015年にリーラコーエンに転職し、マレーシア法人の立ち上げを行う。その後、組織をアジア8カ国にオフィスを抱える多国籍企業に成長させる。リーダーとして300人以上の組織をまとめる経験を通して辿り着いた、グローバルで活躍するために心がけていることを聞いてみた。

まさか、自分がボランティア?
フィリピンで見つけた新しい道

 東京都下の商店街で育ち、高校から立教高校に進学。仲間も自分も皆、髪は明るく染め、ロン毛やパーマ。チャラチャラした男子校生としての生活を謳歌し、内部進学。そんな自身の人生が大きく動いたのは大学3年生の時だった。

 元大学の英語教師が企画した、フィリピンでスキューバダイビングのライセンスを取りながら、ボランティア活動もするツアーに参加することになった。正直、ボランティア活動がどういうものかイメージがつかないままにフィリピンを訪れたのだが、その光景が衝撃的だった。出向いた先には、150人くらいの子どもたちが施設で暮らしていた。聞けば、親らは出稼ぎに行っており、一緒に暮らしていないという。中には親に捨てられた孤児もいる。何の不自由なく育った自分から見れば不運な境遇にいるのに、子どもたちの目はキラキラしていて、底抜けに明るい。

 彼らと数日間を過ごす中で、彼らのためにできることはなんだろう、と真剣に考えるようになった。必要なのは善意でも物品でもなく、お金だった。日本に帰ってすぐにNGO団体プラスワンを立ち上げ、初代代表として活動を開始。まずは子どもたちの夢を叶えてあげたい、その熱意が何よりもの原動力だったように思う。活動自体がとても楽しく、また共感してくれる多くの仲間が集まり、活動領域もフィリピンとカンボジアに広がった。

 プラスワンを通して触れ合う子どもたちから得るものはとても多かった。言葉で表すとチープに聞こえるが、一番強く感じたのは自分が必要とされている「愛」のようなもの。活動中は幸福感に満ち溢れていた。子どもたちが自分の手をそっと繋いでくる。自分の行為一つひとつを、こんなに喜んでくれる人がいる。それまでは家族以外の誰かから求められているという感覚なんて味わったことがなかったから、この「自分が求められている」感覚と「求めてくれる人をもっと幸せにしたい」欲求が、自分を別の世界に連れて行ってくれた。今の人生もプラスワンの延長線上にあると言っても過言ではない。

 国際ボランティア団体を立ち上げたというと、さぞや英語が得意だったかのように思われるが、当時の自分は英語が大の苦手だった。どのくらい英語がダメだったかというと、英語の授業の単位が最後まで取れていなくて、それが原因で大学を留年するくらい。内定していた就職先もいったん白紙に戻さざるをえないという辛酸を舐めた。翌年2度目の就職活動の時に、プラスワンで一緒に活動していた友人(現在の妻)に誘われて、リクルートに入社。新卒で福岡に配属になり忙しく動き回っていた。ところがそこにリーマンショックが訪れる。

 九州にある求人が目の前からいきなり消えてしまった感覚だった。リーマンショックを経てもなお、東京にはメディカル領域等に活路があったため異動したものの、仕事に対する虚しさ、そして自分の存在意義を問う気持ちは変わらなかった。日本の将来をネガティブに感じるようになり、このままいけば、経済と共に自分自身も共倒れするのではないか。新しい道を歩む時が来た気がした。

 

願い出た中国転勤。
中国語の勉強に没頭する日々

 自分の気持ちが揺れ動いていた時、上海に進出したクライアントから中国マーケットの無限の可能性を聞いた。彼の目の輝きを見て自分も海外で仕事をしたいという思いが高まった。そこで会社に退職願を出したが、上司から突き返されてしまう。「そんなに海外で仕事をしたいなら一緒に中国マーケットを開拓しよう。中国で揉まれて苦しんで、頑張れ!」と背中を押され、リクルート社員として中国事業を拡大することになった。

 こうして2010年に中国に行ったものの、右も左もわからない。2008年に労働基準法ができたばかりの中国は、当時の人材業界にとっては未開の地。求職者がどのようなキャリアを積んできた人なのか、そんな基本的な情報も面談して直接話さないと把握できない状況なのに、自分は中国語はおろか英語も話せず、仕事が前に進まない。

 中国語ができないと仕事ができない現実を知り、そこから猛勉強した。平日は仕事終わりに1時間半のレッスンを週3回、土曜日は6時間のレッスンを中国語の勉強に費やす。目指すのは中国語ネイティブではない、下手でも主張したことが伝わる中国語で良い。そこに明確な目標を設定して半年間学び続け、ある程度の中国語を理解できるようになった。一つの語学をダメなりにも習得することができたというのは生まれて初めての経験で、自信をもつ大きな一歩だった。

 2011年には蘇州拠点立ち上げのため異動。ローカルスタッフの中に日本人は自分ひとりという環境の中、ここでも中国語の勉強を続けた。今度は机上の学習だけでなく、中国語の歌などもマスターし、中国人との心の距離を近づけることを強く意識した。ローカルスタッフの結婚式でその歌を披露するなど、彼らとの私的なコミュニケーションもとるように心がけた。

 中国で働く日本人の中には「中国語ができなくても大丈夫」という人もいるが、自分の経験からして、それは無理な話だと思う。日本人同士なら空気を読みながら、相手のことを慮ることができるかもしれないが、外国人同士では空気を読んだところで信頼関係は築けない。海外では自己主張しない限り、誰も自分を理解なんてしてくれない、ということを肝に銘じたほうが良い。

  

人生は先が読めないことの連続。
突然の転勤が未来の扉を開く

 彼らとの心の距離が近づいた中国駐在だったが、突然に起きた反日デモによりその代替地として東南アジアへ投資先が拡大し、タイ法人の立ち上げ、またベトナム法人の責任者として兼務でベトナムに転勤となった。ベトナムでは中国語が使えないので、学生時代にトラウマのあった英語をここで学び直すこととなる。留年するほど英語が苦手だったので、ローカルスタッフとの簡単なコミュニケーションもはじめのうちは大変な準備が必要だった。朝会で話す前日にはリハーサル、英語での面接では事前シミュレーション、身振り手振りも頼りにしながら英語を身につけていった。そうやって必死で英語を勉強し、ローカルスタッフとの仕事もさぁこれからというところで、6ヶ月で日本に戻ることになる。

 これはサラリーマンの悲しい性としか言いようがない。ローカルスタッフと明るい未来を一緒に作るつもりで一緒に頑張っていたが、突然自分だけが日本に帰る。彼らに申し訳ないと思う気持ちが込み上げたが、自分は雇われの身なのでなす術がない。

 リクルートで働いた9年で、9拠点も移動してきた。海外ではローカルスタッフと共に組織をゼロから作るという楽しみがあったし、そこにやりがいを感じて生きてきたが、出戻った日本では、それまでの海外事業部門から完全に切り離される。それをサラリーマンだから仕方ないと受け入れられれば良かったのかもしれないが、自分は居ても立っても居られなかった。この転勤を機に、9年間勤めていたリクルートを退職することにした。


多国籍の組織でリーダーとして働いて
気がついた4つのこと

 退職後、マレーシアで会社を作らないかという誘いを受けた。人材会社「ネオキャリア」の海外事業でもある「リーラコーエン」のマレーシア法人の立ち上げに携わり、それが現在はアジア11拠点で展開する規模になった。その急激な成長を成し遂げるために秘訣があった。最後にそれを4つに絞ってご紹介する。

1) 自分の考えを言葉にして発信する

 先ほども触れたが、日本人しかいない組織であれば、空気を読んでくれる人の存在も期待はできるが、多様性のある組織で「空気を読む」という文化は存在しない。会社の代表として自分の考えを積極的に口に出すことにした。目標設定や目標をクリアにした時のインセンティブ、どういう組織を目指しているのかなど。発信することでローカルスタッフからの共感を得ることができ、会社全体がひとつにまとまることができたと思う。

2)トップダウンではなく、サーバントリーダーを目指す

 中国で通用したトップダウン方式ではなく、サーバントリーダー方式を心掛けた。サーバントリーダーとは「リーダー自らが相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という支援型のリーダーシップのこと。従業員が働きやすい環境を整えるように、自ら動いた。リーラコーエンマレーシア立ち上げの当初は30人いるローカルスタッフと1対1のミーティングを定期的に繰り返し、社員と共に困難を克服し、会社を育てるという感覚を共有した。このチームプレイ重視の経営スタイルは、マレーシア、台湾、シンガポール、タイなどアジア諸国では馴染みがある。

3) みんなで一緒にという体験を重ねる

 ローカルスタッフ同士が同じ体験をシェアすることができる機会を設けた。中でも、お楽しみ要素の強い社員旅行やチームビルディングのためのアクティビティはローカルスタッフのモチベーションを上げる効果的なイベントだ。リーラコーエンでは、創業以来、連邦制のように各国拠点が独立して経営をしていたが、2018年、ワンマネージメント体制に変更。8カ国に点在していたオフィスの連携を進め、知識の共有などを図り、効率性のアップを狙った。その時にアジア全域の社員との価値観の共有が課題となった。

 3ヵ月かけて、リーラコーエンとして大切にしている考え方「リーラコーエン・ウェイ(REERACOEN WAY)」を策定した。そして社員旅行。「すべての経験は素敵な贈り物」という考えのもと、楽しい経験をスタッフが一緒に体験できたら、チームの絆が深まるのではないか。せっかくやるならば最高の瞬間になるように、社員の記憶に残るようなキックオフイベントや合宿を企画。リーダー自らがワクワクするような未来を一緒に作ろうとしている姿勢を見せることも、社員のやる気に繋がったし、ひいては社員が会社に定着してくれる助けになっているように思う。

4)拠点の責任者や現場のマネージャーに協力してもらう

 リーダー自ら積極的に発信したり、ミーティングを設けても言葉の壁にぶつかることはある。そんな時、頼りになるのはローカルスタッフのマネージャーだ。コロナ感染拡大で社員と対面できない時には、各拠点の責任者やマネージャーが積極的に発信することで社員との関係を保つことができたという例がある。また前述した社員との1対1のミーティングも、今のような300人以上の社員を抱える組織では現実的ではない。そんな時にもマネージャーが社員の声を拾ってくれる。最近ではローカルスタッフの中にもサーバントリーダーを志す社員が増え、とても良い循環ができているという手応えがある。

 リーラコーエンという会社は無名のところからスタートした。会社に力がないから、頼りになるのは最初は個々人の力しかない。そんな時、彼らの意見は貴重だったし、それらの意見やアイデアを束ねて一つの目標に向かうチームワークは会社を成長させるために絶対に必要だった。国籍が違う人たちと異なる意見をぶつけ合ったり、一つの目標を目指すことは決して楽なことではないが、上にあげた4つを実現することが会社の成長を支えたのだと強く感じている。

  【文】黒田順子

Aun Communication のコメント:

 インタビューの中で印象的なエピソードがあった。リーラコーエンのミッション「世界中の幸せを求める人々と“Wonderful”な未来をつくる」を策定する際、台湾人従業員のある一言が影響を与えたという。日本人・日本企業の感覚では「我々未来をつくる」や「お客様未来をつくる」となりがちなところ、お客様と私たちは近い存在なので「人々未来をつくる」ではないかというコメント。

 多様なバックグラウンドや価値観を持った人々がいるからこそ、新たなアイデアや発想が生まれ、より良いアウトプットやイノベーションにつながる。多様性のある組織の強さはまさにそこにあると思う。

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