“Global Leader Story“ vol.16 岩崎 博寿
オックスフォード在住の起業家・Infinity Technology Holdings 創業社長
日本で生まれ育ちながらも、グローバルな仕事環境で大活躍するリーダーの軌跡とマインドを発信するグローバルリーダー・ストーリー。
16回目のグローバルリーダーは、オックスフォード在住の起業家・Infinity Technology HoldingsでManaging Directorを務める岩崎博寿氏。鹿児島県出身、芝浦工業大学卒業。海外歴27年、IT系と食品系の会社を中心に24社所有。従業員は110名以上。現在は、イギリスと日本でIT会社の買収をメインに活動しており、日本では2028年までに東京プロマーケットに上場するのが目標。(2024年11月時点)
今回は国境を超えてM&Aビジネスを手掛ける岩崎氏に、創業から現在までの軌跡とビジネスの展望について語っていただいた。
鹿児島生まれ、鹿児島育ち。田舎で育ったから、漫画やドラマの影響で東京に強い憧れを持つようになった。18歳の時の大学受験では、いくつか地方の国立大学から合格をもらったが、それを辞退してまでも東京の大学にこだわった。東京で新聞配達員のバイトをし、奨学金を得て予備校に通い、浪人生活を送りながら、芝浦工業大学に合格。やっと憧れの東京暮らしを手に入れた。夢にまで見た東京での大学生活だったが、その高揚感は長続きせず、今度は海外に出たくなる気持ちが沸々と湧き上がる。海外旅行先としては安全なシンガポール旅行を皮切りに、春夏2ヶ月づつ、長期のバックパッカー旅行に出るようになった。東京に飽きたからか、何かにチャレンジしたかったのか、その動機ははっきりと思い出せないが、普通の海外旅行では満足できず、インド、パキスタン、ネパール、東ヨーロッパ、中米や南米と、渡航先の難易度がどんどん上がっていった。大学在学中に49カ国制覇。次の瞬間、何が起こるかわからない面白さを求めていたのだと思う。
人生を変えるイギリスへの語学留学
そのまま欧州で就職へ
旅行中に出会った女子学生から聞いた、イギリスへの語学留学が人生を変えるきっかけとなった。就職活動をし、どこかから内定が出たら、人生もう2度と留学のチャンスは巡ってこないだろう。普通は就職したら生活が安定し不安が消えるものだが、自分にとっては就職することが不安で、リクルートスーツを着た同級生を横目に、あえて就職活動を一切しなかった。卒業式を待たずに35万円を握りしめ、イギリスに向かって旅立つ。できる限り、旅費を安く上げる必要があったために、鹿児島から電車で長崎に向かい、船で上海へ。鉄道で、北京、ウラジオストックと乗り継ぎ、シベリア鉄道で欧州へ。そんな貧乏旅行でも交通費は25万円必要となり、イギリスのオックスフォードに辿り着いた時には、手元に10万円しか残っていない有様だった。
10万円が無くなったら、日本におとなしく帰るつもりだった。オックスフォードではシーズンオフのために安い価格で宿泊を提供してくれるユースホステルに拠点を置く。インド人やオーストラリア人など、世界各国から来た同じような若者たちと8人部屋で寝泊まりした。6ヶ月、計2ターム、オックスフォード大学のカレッジが行っている語学学校に通う。午前中は勉強、14時から気ままに過ごすという人生でもっとものんびりした時間だったかもしれない。宿泊費以外は1日に1ポンドしか使えないような生活をしていたものの、いよいよ資金が底をつく。困ったことに日本に帰るフライト代もない。とにかくお金が必要だった。そこでイギリスで就職活動に挑戦することを決意。イギリスに拠点を置く日系企業や日本とビジネスを行っている企業リストを手に入れ、商社、コンピューター&IT系、機械系と目星をつけて240社に連絡をしてみる。ほとんどの企業に断られたが、なんとか4社だけ面接にたどり着き、内2社から内定をもらう。その中から、アイルランド人がオーナーのIT企業を選び、入社した。26歳のことだ。
ベルギーとイギリスで会社経営に携わる
企業の成長とともに歩む30代
就職した会社「ブルー・ファウンテン」はクライアントが日系の大手自動車メーカー。自分を含めても6人という小さな会社だったが、社員はモロッコ人、オースオラリア人、日本人、アイルランド人という国際色豊かな環境だった。その頃、日系企業絡みでベルギーの大きなプロジェクト案件が決まり、社会人経験はないのに、突然ディレクターとしてベルギー支店に派遣された。3人体制でスタートしたベルギーのプロジェクトだったが、4年が経つときにはオフィスを借りて、営業やエンジニアを雇い10人規模の会社になっていた。ロンドン本社よりも大きくなり、自分はベルギーで働きながら、ロンドンの経理を見るようになり、会社の中での責任も増していた。そんなある日、とうとうオーナーから社長になってほしいと頼まれる。32歳で、ベルギーからイギリスに戻ることになった。
そこから7年間、社長として「ブルー・ファウンテン」の経営に携わった。イギリス本社18名、ベルギー支社12名、合計30名という、そこそこの規模の会社に成長した。その中核で采配を奮い、40歳を目前に控え、新しいチャレンジについて考え初めていた矢先、突然アイルランド人のオーナーから「ベルギーの支社を買わないか」という提案を受けた。忘れもしない、それは11月の夕方だった。購入価格として提示されたのは40万ポンド。ちょうどその時、イギリスで不動産を購入するために貯金していた9万ポンドを用意していた時だった。同じ会社に勤めて、今もビジネスパートナーである坂井にも相談し、一緒にベルギー支社を買うことに決めた。自分が9万ポンド、坂井が6万ポンド、自分と妻が緊急融資を2.5万ポンドずつ取り付けて、合計で20万ポンド、40万ポンドに足りない残金20万ポンドは3年払いとしてもらった。驚くことに話を持ちかけられてから、たった4、5時間で買収金額の話がまとまった。長年携わっていたイギリスの仕事から完全に離れたのは、半年後の契約日。買収したベルギーの会社を「インフィニティ」に改名し、イギリスに持ち株会社「インフィニティ・ホールディングス」を設立、オーナーとして、国を跨いだ経営を開始した。
「売れないなら、買ってやれ!」
逆転の発想が思わぬ成功に針路を取る
その直後、買収したばかりのベルギーの会社が大きな利益をあげたこともあり、早速売りにかけることにした。しかし現実はそう甘くなく、買い手が現れなければ、売却することもできない。思うように事は進まなかったが、待っているのがどうも性に合わない。そこで「売れないなら、買ってやれ」-----こう発想を変えることにした。今思えば、なんの脈絡もない逆転の発想だったが、人生何があるかわからないから面白い。パートナーの坂井がタイミングよく、ベルギーで経営難に陥っていた日系のスーパーマーケット「タガワ」が売り先を探している話を持ってきた。今度は坂井が70%の株主となって、タガワを買収。それを契機に多くの企業買収を手掛けることになった。業種もバラバラ、戦略も特にない。日本人ネットワークを駆使し、あちらこちらから情報を仕入れて、色々な業種の企業に手を出した。
すでに売却してしまった企業も含めれば、この10年間で、合計17社を買収したことになる。それに加えて、エバーグリーンという投資会社やM&A仲介会社を設立。試行錯誤しながらジャンルを問わず、手当たり次第やってきた感がある。
だが、2019年にマキシムというITのハードウェアを取り扱う会社を買収してから方針を変え、ITに特化することに心を決めた。マキシムという会社は16名のリバプールにある会社で、自分にとって100%イギリスの会社を買収したのははじめてだった。もともと自分が専門としていた分野であるITに絞ることで、会社のより大きな発展の定石にしたいと考えている。
自分だけではなく相手にとっても
幸せなM&Aに未来があると信じている
こうして10年間、M&Aのビジネスに携わっていて感じるのは、M&Aは売り手探しで決まるということ。買収先として相応しい「利益を出している会社」との出会いがとても重要であり、そういった企業を探すのが難しい。 だからM&Aを専門にしたエージェントにビジネスの機会があり、日本にも多数存在するのだが、自分はあえてエージェントを使わない方法でM&Aを試みている。自分の目を通すことで、その案件が現実的か、自社にとって良い条件であるか、そして相手にとってもハッピーかどうか、見極めることができるからだ。またM&Aのエージェントを通すと、高額な手数料が発生するが、自分が直接、売主とやりとりをすれば、そういった費用も不要になり、経済的にも有効だ。
では、どうやって、そういった案件を見つけているのか。自分は郵送によるダイレクトメールを大いに活用している。このデジタル全盛期に郵送とは古いやり方だと思われるかもしれないが、会社を売ろうと考える65歳以上の方々には、電子メールより郵送された手紙のほうが効果的。手紙には、過去に広島の会社を買収した時のストーリーと自分の想いが書かれており、定期的に3000通ほど送る。加えてダイレクトコールも積極的に取り入れている。その中から興味をもってくれるのは、ほんの数社ではあるが、それでも良い感触を得たら、社長である自分が直接、相手と話し、一生懸命に働きかける。多くの会社が経営で苦労していたり、跡継ぎ探しが難航していたりと、何らかの問題を抱えているから、自分が買収するメリットをできる限り、熱意を込めて語り、説得する。苦労や困難はプロフェッショナルを抱えた自分の会社がしっかり見るから、と言うとまず多くの方が安心してくれる。特に会社を創業して以来、30年40年かけて会社を大きくしてきた創業オーナーにとっては、会社を潰すのだけはなんとしても避けたい。従業員も守りたい。だから、自分が買収することで会社が存続するとことになるとわかった途端に、涙を流して感謝してくれる方も多い。日本に限らず海外でもM&Aを手がけているが、ここには日本人と外国人の差はないように感じる。
今後の展望は日本でも欧州でも、M&Aを活用しながらITビジネスを拡大すること。この数年かけて、双方のオフィスを合計して従業員が200人を超える規模になったら良いかなと思っている。いずれ自分がフロントで働く必要はなくなるのかもしれないが、今は自分が最前線で働いているのが楽しい。M&Aエージェントではなく、自分たちでM&Aを手がけているからこそできる「新しい手法」も開拓し、次の10年に繋げてゆきたい。
【文】黒田順子(2024年11月執筆)
Aun Communication のコメント:
日本企業によるクロスボーダーM&Aは非常に難易度が高いとされているが、岩崎氏が手がけた案件はかなりの確率で成功している。良い売り手を見つけるために手紙を活用したり、仲介会社を使わずに自ら交渉にあたるなどの工夫が功を奏しているのだろう。しかし、もう一つ重要な成功要因は、岩崎氏が「日本人と外国人で差を感じていない」と語るように、相手が外国企業や外国人であっても、膝を突き合わせて対話しようとする姿勢と覚悟にあると思う。
【その他のグローバルリーダー・ストーリー】
Vol.1 岡部恭英(UEFAチャンピオンズリーグで働く初のアジア人)
Vol.2 岡田兵吾(Microsoft Singapore アジア太平洋地区本部長)
Vol.3 外山晋吾(国境を超えるM&A後の統合プロセス(PMI)のプロ)
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Vol.6 小西謙作(元キヤノン 東南アジア/南アジア地域統括会社 社長)
Vol.7 玉木直季(「人が喜ぶ人になる」英国王立国際問題研究所(Chatham House)研究員)
Vol.8 小野真吾(三井化学株式会社グローバル人材部 部長)
Vol.9 廣綱晶子(欧州留学/欧州MBA/就職・キャリア支援のビジネスパラダイム代表・創立者)
Vol.10 間下直晃(株式会社ブイキューブ 代表取締役会長 グループCEO)
Vol.11 永井啓太(ビームサントリー エマージング アジア ファイナンス&戦略統括)
Vol.12 河崎一生(Japan Private Clinic院長、CareReach, Inc. Founder & CEO)
Vol.13 上澤貴生(DMM英会話創業者、元CEO)
Vol.14 南章行(株式会社ココナラ創業者、取締役会長)前編
Vol.14 南章行(株式会社ココナラ創業者、取締役会長)後編
Vol.15 原田均(シリコンバレー発のスタートアップ Alpaca DB, Inc. 共同創業者兼CPO)
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(お知らせ)
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